有森 裕子さん 体験記

聞き手:論スポ編集長 本郷 陽一

有森裕子さんは、女子マラソンのバルセロナ五輪銀メダリスト、アトランタ五輪銅メダリスト、日本の長距離界を世界のトップレベルに引き上げたパイオニアだ。

バルセロナのモンジュイックの丘で演じたエゴロワとのデッドヒートは、今なお五輪史に残る名勝負であるし、無名のロバがポーンと飛び出たアトランタでは果敢に、その背中を追い、レース後に涙ながらに語った「自分で自分を褒めたい」は伝説的な名言である。

07年に現役を引退後、現在は、ライフワークであるカンボジアの地雷で被害を受けた子どもたちの生活自立支援活動や国連人口基金親善大使、NPO法人「ハート・オブ・ゴールド」代表、認定NPO法人スペシャルオリンピックス日本の理事長としてエネルギッシュに活動されている。

その有森さんに今回のビーフンアスリート食を試食していただき「勝つための食事」について聞いた。

――有森さんは現役当時、食事というものをどう捉えていましたか。

有森さん 「アスリートにとっては食事もトレーニングの一貫、パフォーマンスの一貫だと考えていました。決しておろそかにできないものですね」

――どういうものを食べられましたか。

有森さん 「好き嫌いではなく何に栄養素があるのか、身体にいいのか悪いのか。素材を意識していました。アトランタ五輪の前くらいからは、栄養士の方がチームにいて栄養の知識も教えていただき、ひとつの栄養素だけではなく、その組み合わせと吸収を考えていましたね」

――例えば一日はどんなメニューを。

有森さん 「朝は練習後の8時30から9時頃にご飯、味噌汁、納豆に動物性タンパク質ですね。主に魚です。そこに野菜類をプラスします。パンは食べませんでした。バターが加わっているのでカロリーが高いんですよ。昼からまた練習がありますから消化のいいものにもこだわりました。だから昼食は基本は抜きですね。バナナとかくらいです。夜は動物性の良質の高タンパクを食べていました。天ぷらなどは一切食べません。高カロリー食品は厳禁でした。でも、そういう油モノも時々はいるんですよね。そこを極端には排除はしません。マラソン練習では鉄分を失うので、小出監督なんかは、朝からレバーニラ炒めなんかをよく作ってくれました。まあ、朝から食べれるメニューじゃありませんが(笑)」

――オリンピック時の朝食メニューはいつも決まっていたようですね。

有森さん 「お餅を2つにおにぎりを1個。それにカステラですね。アトランタの朝は、レースが早朝だったし眠れなかったので食べたくなかったことを覚えています」

――お餅におにぎりは炭水化物ですね。

有森さん 「私たちの頃は、『グリコーゲンローディング』と言われる、レース直前に炭水化物を入れる食事法しかありませんでしたからね。1週間くらい前は逆に炭水化物を抜き、スタミナ源となるグリコーゲンのタンクを広げておいて、直前に炭水化物を多く入れる手法ですね。主にパスタなどで『カーボパーティー』といういろんな種類のパスタを食べるパーティーが開かれたりしていました。でも、最近は、その手法も見直されています」

――グリコーゲンローディングは、逆に体重増加などのデメリット点があるんですか。

有森さん 「そうですね。一つは、レース途中の給水ドリンクの中身が変わりましたよね。昔はスポーツ飲料やただのお茶や紅茶などでしたが、今は、そこでアミノ酸を摂ります。そのアミノ酸と結合して、エネルギーを燃やすには、タンパク質が必要なんですよね。だから、それを活用するには、炭水化物でなくタンパク質を入れておかねばなりません。私は2007年の引退レースとなる東京マラソンの朝には、温泉卵を食べました。オリンピックに出場した頃に、そういうスポーツ科学の知識はなかったのですが、カステラを食べていました。あれは、卵から出来ていますから、パーフェクトな食べ物だったんですよね」

――なぜビーフン食が理想的なんですか。

有森さん 「ビーフンは、タンパク質を加えたメニューにできますし、GI値が低いので体脂肪がつきにくい点ですね。ビーフンは、これまでのグリコーゲンローディングのデメリットを避ける理想的な炭水化物かもしれませんね。それに夏場や胃が疲れているときに最適じゃないですか。合わせる材料によって気楽にとれるバランス食にもなりますね。ビーフンは活用の仕方をうまくすれば、アスリートにとっていい食材ですね。ひとつ気にかけて欲しいのは噛むという行為を入れることですね」

――噛むという行為?

有森さん 「そうなんです。噛むことで内臓機能が活発化します。あまりつるっと流しこんでしまうと、栄養素を吸収する機能が低下するんです。このビーフンとご飯を混ぜた豚キムビーめしなんかは、噛まねばならないのでいいですよね」

――今回4つのメニューを試食された感想をお願いします。

有森さん 「納豆とじゃこ梅のパスタ風のメニューは朝にいいんじゃないですか。クエン酸の作用も出ますよね。ビーフンは結構歯ごたえがあるので、先ほどお話した噛む行為がおろそかになりませんね。豚キムビーめしは、豚肉のビタミンB1が効いています。美味しいですよね。スープカレービーフンは疲れて直欲がないときに最適です。食べやすいですよ。これはアスリートにとって疲労の極限の最後の手段として使えるメニューじゃないですか。消化も悪くありませんから。ビーフンをアスリート食として使うのは、これまでなかった形ですが、非常に面白いと感じましたね」

――最後にアスリートと食の問題を総括してもらえますか。

有森さん 「スポーツ選手には、食に関する意識をもっともっと上げて欲しいですね。出されたものを何も考えず食べる人が多いので、それではパフォーマンスも向上しません。勝つためにには、どういう食材や栄養素が何のために必要なのかを理解して欲しいですね。食が体を作ります。そういうこだわりは結果にも顕著につながるのです」